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 鬼平犯科帳19【逃げた妻】(文春文庫)

 木村忠吾の飲み仲間、浪人藤田彦七へ二年前に逃げた妻おりつから、助けを求める手紙が届いた。
 藤田はすでに後添いをもらい、おりつの娘と三人で暮らしていた。
 おりつを助けたい、でも今の生活を捨てる訳には……。
 事を聞いた平蔵は、不穏な気配を感じ取った。
 そこで、おりつが藤田と落ち合う前日、周辺を歩いてみると、昔、取り逃がした盗賊が……。

 平蔵は茶店に入り辺りの事を覗う事に…。

 木村忠吾が藤田彦七と会った翌日の昼下がりに……。
 盗賊改方長官長谷川平蔵が大塚中町の通りを北へ歩む姿を見出すことができる。
 今日の平蔵は、細川同心を従えてはいず、例によって着ながしの浪人姿で塗笠をかぶり、ゆっくりした足取りで、波切不動堂の前まで来た。
 今日は風も絶え、雲一つなく晴れわたり、気温も上がったようだ。
 波切不動堂の別当は、日蓮宗の通玄院だが、境内は、まことに狭い。
 通りに面した空地の正面に茅ぶき屋根の茶店が一つあり、その左手に鳥居が見える。
 藤田彦七の逃げた妻が、鳥居前の茶店、と書いてよこしたのは、この茶店であろう。
 鳥居を潜って石段をあがると、黒塀の小さな門。
 その門の向こうに本堂がある。
 「ゆるせ」平蔵は茶店へ入り、あたりを見まわした。
 変哲もない茶店である。
 荷馬を外に繋いだ中年の馬方が一人、土間の腰掛で酒をのんでいた。
 平蔵は茶店の老婆に酒をたのみ、塗笠をぬぎ、馬方から少しはなれた腰掛にかけた。
 老婆が、ぶつ切りにした蒟蒻の煮たのを小鉢に入れ、酒と共に運んできた。
 唐辛子を振りかけた、この蒟蒻がなかなかの味で、「うまい」おもわず平蔵が口に出し、竈の傍らにいる老婆へうなずいて見せると、老婆は、さもうれしげに笑った。
 皺は深いが、いかにも人の善さそうな老婆だ。

【蒟蒻の煮しめ】
料理:田村隆
材料:二人分
蒟蒻(1枚)濃口醤油(大さじ半分+半分)砂糖(大さじ半分)出汁(200㏄)油(大さじ半分)赤唐辛子(半分)七味唐辛子(適量)

さっと湯通しした蒟蒻は両面を、すりこ木で軽く叩く。
両面を斜めから細かい包丁目を入れる。
コップを使い不揃いに切る。
フライパンに油を入れ炒める。
炒めて水分を飛ばす。
赤唐辛子を入れさらに炒める。
蒟蒻に水分が飛んだら、出汁、砂糖、濃口醤油を加え一煮立。
煮立ったら落し蓋をして中火でじっくり煮つめる、5分ほどしたら火を止め冷ます。
そして又火にかけ冷ます、この動作を3回繰り返す。
最後に醤油を加え、味を調える。

小鉢に盛り付け七味をのせる。


 鬼平犯科帳9【白い粉】(文春文庫)

 長谷川平蔵の家で料理番をしている勘助。
 ここ数日味付けが妙である。
 実は勘助博打で借金を造り、女房を連れ去られていた。
 そして付きまとう男達から、金を返せぬのならと差し出された、白い粉。
 つまり、平蔵の料理に毒を盛れと……。

 勘助は悩みつつも夕餉の膳の吸い物へ白い粉を落とし込む。
 腕ある男の得意料理、だがこの日の味はちっと違う。

 上方でいう〔あぶらめ〕という魚。
 関東では鮎並と言うし、江戸へ入る小さなのを〔クジメ〕ともよぶ。
 長谷川平蔵は若いころから、この鮎並が大好物であった。
 鮎並は細長い姿をしてい、緑褐色の肌に斑文が浮いているし、鮎のような姿ながら、あまり美しいとはいえぬ。
 平蔵はこれを辛目に煮つけたものが、好きであった。
 その日鮎並の煮つけが、夕餉の膳にのぼった。
 「や、これは……」たのしげに箸を取って一口。
 傍らにいた妻女の久栄は、さだめし、夫・平蔵の口から、「うまい!!」の一言が洩れるとおもっていたのだが、平蔵は小首をかしげ、もう一口。
 「いかがなされました?」久栄の問いにはこたえず、平蔵は鯨骨の吸い物に口をつけて、「妙な……」と、つぶやいたものである。
 「妙な?」「勘助のことよ」「勘助が、どうぞいたしましたか?」勘助は半年前から、長谷川家ではたらいている料理人なのである。

 〔中略〕
 「このごろ、勘助はどうかしている。ところに何ぞ、屈託があると見える」

【鮎並の煮つけ】
料理:田村隆
材料:二人分
鮎並(70g×2切れ)濃口醤油(50㏄)酒(50㏄)みりん(50㏄)砂糖(15g)鰹出汁(50㏄)くず粉(適量)木の芽(適量)

鮎並は三枚におろして、丁寧に骨抜きをする。
小骨が多いため骨切りをする。
骨切りをした中まで刷毛でくず粉を丁寧に付ける。
〔身の中に使った美味さを逃がさない一工夫〕
鍋に鰹出汁、酒、味醂、濃口醤油、砂糖を入れる。
一煮立ちしたら皮を下にして鮎並を入れる。
再び煮立ったら落し蓋をして3~4分煮る。
落し蓋をして3~4分煮たら一度火を止めて冷ます。
再び火を点け汁をかけながら味をしみこませる。
煮て冷ます、煮て冷ますの繰り返し。

鮎並の煮上がりは美味そうな黄金色に、小鉢に盛り木の芽を添える。

6:46 2014/04/18


2013年新潟県上越市高田公園の桜


 【真田太平記八】池波正太郎(新潮文庫)

 天正10年。
 武田勝頼、最後の砦[高遠城]。
 城を守る足軽向井佐平治は、お紅に出会った。
 お紅は、真田昌幸配下の忍び[草の者]。
 城を脱した佐平治は、お紅と信州真田へ向かい、別所温泉で昌幸の次男源次郎信繁[幸村]に出会った……。

 戦乱の山田舎、夕餉は忍びの者達にとって僅かな安らぎ。

 その日の夕暮れになり、下久我の忍び宿の屋根裏の部屋で眠っていたお紅から合図があったので、権左が隠し梯子を下ろした。
 すでに奥の部屋から奥村弥五平衛も起き出ている。
 階下へ降りて来たお紅は、弥五平衛と共に夕餉の膳についた。
 権左が支度した熱い粟飯である。
 この粟飯は、権左が得意とするもので、干し柿と干し大根が刻みこまれていた。
 「よう、眠れたか、弥五どの」「さて……」苦笑を浮かべた弥五平衛の瞼が、わずかに腫れている。
 お紅も同様であった。
 「やはりな……」「そちらも?」「うむ……」意味ありげな二人の遣り取りを権左が見つめている。
 今夜の忍び宿には、三人きりであった。

【干し柿と干し大根を刻み込んだ熱い粟飯】
料理:田村隆
材料:二人分
もち粟(70g)玄米(2合)水(520㏄)切干大根(乾燥20g)干し柿(35g)酒(200㏄)味醂(40㏄)濃口醤油(40㏄)砂糖(10g)赤唐辛子(1本)昆布(15g)

先ずは玄米を洗う、研ぐと言うより優しく洗う。
洗った玄米は6時間以上水に浸ける。
もち粟は一晩水に浸ける。
玄米は浸けて置いた水事釜に入れ、もち粟は水切りしてから合わせ炊く。
切干大根は一晩水に浸け、戻して茹でておく。
切干大根に茹でた昆布を千切りにして入れる。
煮切った酒と味醂・砂糖・濃口醤油・赤唐辛子を入れ、一晩浸けこむ。
干し柿は種を除き1センチ角に切る。
浸けこんだ切干大根と昆布は水を切り細かく刻む。
炊けたもち粟に入った玄米に入れよく混ぜる。
茶碗に盛ったら刻んだ干し柿をのせる。


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