» 2014 » 2月のブログ記事

 剣客商売四 天魔「老僧狂乱」

 秋山大治郎は、昔世話になった僧侶が大川に身を投げる場に出くわし、助けた。
 金百両を盗み取られた故の身投げ。
 話を聞いた小兵衛は、金を工面し僧侶に渡した。
 しかし裏では、四谷の弥七が僧侶を見張った。
 案の定、僧侶は翌朝、姿をくらませた。

 そこへ、お春が酒の支度をしてあらわれた。
 鉄鍋で煎りつけた鴨の肉に、芹をあしらったものが運ばれた。
 「さ、熱いうちにやれ」「いただきます……」「あ、これは……」「どうじゃ、うまいだろう?」「はい」「あとで、お
はるが得意の鴨飯をつくるぞ」それに、熱湯へ潜らせた芹に淡塩をあてて、軽く圧した漬物も出た。
 「ようやくに、腹の虫が、おさまったわえ」

【鴨鍋】
料理:田村隆
材料:二人分
鴨肉(400g)芹(2束)醤油(大匙2,5)砂糖(大匙2)酒(大匙2)

芹は5㎝の長さに切り、根の部分は捨てずに水に浸しておく。
鴨肉は余分な脂身・皮・すじなどをとり除く。
皮に包丁目を入れ、目を横にして一口大に切り、油を引いた鉄鍋で炒り付ける。
芹は固い根の部分から鍋に入れ、砂糖と醤油で甘辛く味を付ける。
さらに酒を加え円やかに、煮上がったら芹を入れ、煮ながら頂く。

【鴨飯】
料理:田村隆
材料:二人分
取り除いた鴨、長ネギ1本、ご飯茶わん二杯

鴨は細かく切り、長ネギは縦に割り、1㎝に幅に切る。
食べ終わった鴨鍋の中に細かく切った鴨、葱、ご飯を入れ焼き飯の要領で炒める。

【芹の漬物】
料理:田村隆
材料:芹の葉の部分と塩

芹の葉の部分は塩を入れた湯にくぐらせ、塩で揉む。


 剣客商売六 新妻「鷲鼻の武士」

 若き剣客渡部甚之介は、黒田道場の代稽古をつとめていた。
 そこへ三人の侍がやって来て、立合いを申し出た。
 渡部は、浪人風の二人を打ち倒したが、鷲鼻の男だけは立合おうとせず去っていった。
 しかし翌朝、渡部の元へ、鷲鼻の男から果し状が届けられたのである。

 小兵衛と将棋を指す渡部だが、この日の様子をちと違う。

 「将棋はお好きか?」「はあ……」「では、ひとつ、相手をさせてもらいましょうかな」「願うてもないことです」というのが、はじまりで、以後は月に一度ほど、甚之介が隠宅へあらわれ、小兵衛と将棋を指し合うようになった。
 このほうの二人の力量は伯伸している。
 だから、双方がおもしろい。
 ことに甚之介は、いったん将棋に向かうと無我夢中となり、前日の午後から指しはじめ、翌朝におよぶこともめずらしくない。
 この間、小兵衛は酒をのんだり、食事をとったりするが、甚之介は「いや、結構です」と、盤面をにらみつけたままなのだ。
 しかし、終わったのち、おはるが豆腐や野菜の煮染などを出そうものなら、大鉢のそれをぺろりと平らげた上、飯も六、七杯は食べ、「ああ……よい気持ちです」子供に返ったような無邪気さで、細い眼をさらに細め、腹をたたきながら帰っていくのである。

【豆腐と野菜の煮染】
料理:田村隆
材料:二人分
厚揚げ(1枚)蒟蒻(半分)人参(100g)牛蒡(50g)里芋(200g)生椎茸(4枚)(10枚)出汁(400㏄)醤油(大匙2)砂糖(大匙1,5)油(大匙1)

 さやえんどうは沸騰した湯に塩を入れて茹でて置く。
 牛蒡、里芋、人参は乱切りにし、椎茸には表面に切り目を入れる。
 厚揚げは型崩れしないよう大き目に八等分に切り、蒟蒻は味が染み込みやすくするためコップでちぎる、大きさは揃えつつ形は不揃いで。
 鍋に油を引き切った材料を全て入れ、炒める。
 痛めた具材に出汁を入れ、醤油は半分、砂糖も入れる。
 強火で落し蓋をして5分煮、火を止め、落し蓋を外して冷ます。
 何回か煮詰めては冷ますを繰り返す。
 仕上げに醤油を加え汁気が無くなるまで煮詰める。

 煮染は大鉢に盛り、切ったさやえんどうをのせ、小皿に取り分けて頂く。

4:34 2014/02/24


 剣客商売六 新妻「金貸し幸右衛門」

 金貸しの老人浅野幸右衛門が狙われ、小兵衛が助けた。
 襲った男藤丸庄八は、小兵衛を慕う渡部甚之介の幼馴染みだった。
 明くる日、藤丸が殺された。
 幸右衛門は、一年四ヶ月程前の或る日、一人娘が女中と共に出掛けたまま、行方不明となっていた。
 
 (そうだ。久しぶりに、元長へ寄ってみようか……)
 [元長]は、小兵衛がひいきにしている橋場の料亭[不二楼]の料理人長次と座敷女中おもとが夫婦になり、浅草駒形堂裏の河岸にひらいている小さな料理屋である。
 両国橋を渡った小兵衛は、ゆっくりと浅草へ向かった。
 元長へ着くと、長次夫婦がよろこんで出迎えた。
 階下は十坪ばかりの入りこみ座敷だが、どこまでも小ぎれいにしてあり、席を区切る衝立障子もしゃれた造りだ。
 客が三組ほど入っていたが、その中で、小兵衛と同年配の老人が默念と盃をなめているのが目についた。
 去年の暮れに来たときも、小兵衛は、この老人を見かけている。
 背丈が高く、腰も曲がっていない、すっきりとした体つきの老人だが太い竹の杖をつき、短刀をたばさみ、店を出て行く姿が印象に残っていた。
 (中略)
 「ふうん。おもしろそうな老人じゃ」「さあ、なんでございますか……」
 いったん、階下へ去ったおもとが、蠣の酢振へ生海苔と微塵生姜をそえたものと、鴨と冬菜の熱々の汁を運んであらわれた。
 このように、体裁にとらわれずに、うまいものが食べられるというので、このごろの元長は、なかなかどうしてよく繁昌しているのである。

【蠣の酢振へ生海苔と微塵生姜をそえたもの】
料理:田村隆
材料:二人分
牡蠣殻つき(12個)生海苔(20g)生姜(適量)信州味噌(5g)水(3カップ)酢(半カップ)

牡蠣を殻から外し酢と水を入れた鍋に牡蠣の身を入れる。
弱火で牡蠣を振り洗いしながら牡蠣に火を通す、軽く火は通ったら牡蠣をざるに上げる。
生海苔を包丁で刻み信州味噌と混ぜ合わせる。
牡蠣を皿に盛り茹で汁をかけ味噌と混ぜた生海苔と微塵生姜をのせる。


 鬼平犯科帳6「礼金二百両」

 寛政3年の正月、大身旗本横田義郷の家来谷善左衛門が、役宅を訪ね、甥の与力佐嶋忠介に願い出た。
 横田の若様が誘拐され、身代金千両の要求があったという。
 さらに闇の者は、家康から賜った家宝”国光の一刀”をも盗んでいた。
 この刀が盗まったとなれば横田は将軍から切腹を命ぜられるかもしれん。
 平蔵は正月を切る上げ難事件へと挑むことと…

 全ての事が解決した後の平蔵と佐嶋の密かな宴。

 芝・新明町の料理屋[弁多津]の二階座敷で待っている平蔵のもとへ、佐嶋があらわれたのは、それから間もなくのことであった。
 佐嶋が、ずっしりと重い二百両の包みをさし出すと、「よし。これで当分は、泥棒どもをつかまえるための費用に困らぬな」「はい」「このようなことを、あえてするおれを…おぬしの御頭を、おぬしは何とおもうな?」「は……」
 佐嶋忠介は、ついにたまりかね、両手で顔をおおった。
 「泣くな、佐嶋……」「は、はい……」「おぬしが、おれの苦労を察してくれれば、それでよいということさ。だれにも、いうなよ」「はい、は、はい……」

 水のように冴えかかった冬の夕暮れである。
 平蔵が注文しておいた熱い[のっぺい汁]と酒がはこばれてきた。
 大根、芋、ねぎ、しいたけなどの野菜がたっぷりと入った葛仕立ての汁へ口をつけた平蔵が、「うまいな」「は……」「おぬしがひいきにするだけのことはある。躰中が一度にあたたまってきたぞ」「叔父が……あの叔父が、ぜひにもここへ参上し、御礼を申し上げたいと願い出ましたが、あえて、遠慮をいたさせました」「それでよい」「おそれいりまする」「さ、のめ。口をつけぬか」「は……」「冷えるのう。明日は、雪になりそうな……」「さようで」

【のっぺい汁】
料理:田村隆
材料:二人分
里芋 (200g)人参(100g)大根(100g)干し椎茸(3枚)油揚げ(1枚)長ねぎ(1本)出汁(800㏄)

濃口醤油(大匙1)薄口醤油(大匙2)酒(100㏄)みりん(大匙1)葛粉(大匙2)水(大匙2)

人参、大根、里芋は一口大に乱切りにする。
油揚げは半分に切った後短冊に切り、水で戻した椎茸はくし形に切る
切った具材は全て鍋に入れ、そこに椎茸の戻し汁と出汁、醤油、味醂、酒を加えて火にか

ける。
そこへ水溶き葛粉を入れとろみを付ける。
長ねぎは小口切りにして鍋に入れる。
ひと煮立ちしたら椀に盛る。


 鬼平犯科帳8「あきれた奴」

 同心、小柳安五郎は、川に身投げをする妻子を助けた。
 それは小柳が十日前に捕えた鹿留の又八の女房子供だった。
 仲間と寺に忍び僧侶を殺し金を盗んだ又八、仲間は金を持って消え又八だけがお縄となった。
 それを知った小柳は平蔵に内緒で、又八を牢から出し女房子供に合わせることにしたのであった。

 その意図とは…?(この物語に描かれる食の場面)

 小柳が又八の女房子供を助けた夜の事である。
 
 役宅の前は、江戸城の濠に面した広い道で、役宅・正門の正面に[清水御門]が見える。
 江戸城・三十六門のうちの一つで、昔徳川家康が江戸に入った折、このあたりにこんこんと清水が湧き出ていたため、この名が門につけられたとか……。
 門外の東の濠端に、夜に入ると[茶飯売り]が荷を下ろす。
 ひどい雨ででもないかぎり、かならずあらわれる。
 このあたりは幕府の御用屋敷が多く、夜ふけてからそれぞれの小者や、夜勤の者たちが腹をみたしに出てくるので、なかなか繁昌をしているし、お上のゆるしも得ていた。
 あるじは五十五、六のでっぷりと肥った老爺で、無口だがおだやかな人柄だし、それに茶飯がうまい。
 そのほかに餡かけ豆腐も売るし、燗酒も出す。
 寒い夜などに気が向くと熱い[けんちん汁]の用意をしていることもあって、このあたりでは大評判になり、長谷川平蔵も時折、食いしん坊の木村忠吾が夜勤のときなどよびつけて「おい、うさぎ濠端へ行け。ただし女房どのに気取られるなよ」などと、銭をわたして茶飯と餡かけ豆腐を買いにやることもあった。
 今夜も茶飯売りはでていた。

餡かけ豆腐
料理:田村隆
材料:絹ごし豆腐(1丁)昆布(15g)出汁(300㏄)醤油(大匙2)みりん(大匙2)片栗粉(大匙2)水(水溶き片栗粉用)生姜(適量)

昆布を鍋に入れ二つに切った豆腐を入れ沸騰させないようにじっくりと味を染み込ませる。
餡は出汁、醤油、みりんを入れひと煮立ちさせる。
ひと煮立ちしたら火を止め水溶き片栗粉を入れとろみをつける。
餡はダマにならないようもう一度火にかける。

椀に昆布の味が染み込んだ豆腐を入れ熱々の餡をかけおろし生姜を添える。
5:30 2014/02/03


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