鬼平犯科帳6「礼金二百両」
寛政3年の正月、大身旗本横田義郷の家来谷善左衛門が、役宅を訪ね、甥の与力佐嶋忠介に願い出た。
横田の若様が誘拐され、身代金千両の要求があったという。
さらに闇の者は、家康から賜った家宝”国光の一刀”をも盗んでいた。
この刀が盗まったとなれば横田は将軍から切腹を命ぜられるかもしれん。
平蔵は正月を切る上げ難事件へと挑むことと…
全ての事が解決した後の平蔵と佐嶋の密かな宴。
芝・新明町の料理屋[弁多津]の二階座敷で待っている平蔵のもとへ、佐嶋があらわれたのは、それから間もなくのことであった。
佐嶋が、ずっしりと重い二百両の包みをさし出すと、「よし。これで当分は、泥棒どもをつかまえるための費用に困らぬな」「はい」「このようなことを、あえてするおれを…おぬしの御頭を、おぬしは何とおもうな?」「は……」
佐嶋忠介は、ついにたまりかね、両手で顔をおおった。
「泣くな、佐嶋……」「は、はい……」「おぬしが、おれの苦労を察してくれれば、それでよいということさ。だれにも、いうなよ」「はい、は、はい……」
水のように冴えかかった冬の夕暮れである。
平蔵が注文しておいた熱い[のっぺい汁]と酒がはこばれてきた。
大根、芋、ねぎ、しいたけなどの野菜がたっぷりと入った葛仕立ての汁へ口をつけた平蔵が、「うまいな」「は……」「おぬしがひいきにするだけのことはある。躰中が一度にあたたまってきたぞ」「叔父が……あの叔父が、ぜひにもここへ参上し、御礼を申し上げたいと願い出ましたが、あえて、遠慮をいたさせました」「それでよい」「おそれいりまする」「さ、のめ。口をつけぬか」「は……」「冷えるのう。明日は、雪になりそうな……」「さようで」
【のっぺい汁】
料理:田村隆
材料:二人分
里芋 (200g)人参(100g)大根(100g)干し椎茸(3枚)油揚げ(1枚)長ねぎ(1本)出汁(800㏄)
濃口醤油(大匙1)薄口醤油(大匙2)酒(100㏄)みりん(大匙1)葛粉(大匙2)水(大匙2)
人参、大根、里芋は一口大に乱切りにする。
油揚げは半分に切った後短冊に切り、水で戻した椎茸はくし形に切る
切った具材は全て鍋に入れ、そこに椎茸の戻し汁と出汁、醤油、味醂、酒を加えて火にか
ける。
そこへ水溶き葛粉を入れとろみを付ける。
長ねぎは小口切りにして鍋に入れる。
ひと煮立ちしたら椀に盛る。