剣客商売六 新妻「鷲鼻の武士」
若き剣客渡部甚之介は、黒田道場の代稽古をつとめていた。
そこへ三人の侍がやって来て、立合いを申し出た。
渡部は、浪人風の二人を打ち倒したが、鷲鼻の男だけは立合おうとせず去っていった。
しかし翌朝、渡部の元へ、鷲鼻の男から果し状が届けられたのである。
小兵衛と将棋を指す渡部だが、この日の様子をちと違う。
「将棋はお好きか?」「はあ……」「では、ひとつ、相手をさせてもらいましょうかな」「願うてもないことです」というのが、はじまりで、以後は月に一度ほど、甚之介が隠宅へあらわれ、小兵衛と将棋を指し合うようになった。
このほうの二人の力量は伯伸している。
だから、双方がおもしろい。
ことに甚之介は、いったん将棋に向かうと無我夢中となり、前日の午後から指しはじめ、翌朝におよぶこともめずらしくない。
この間、小兵衛は酒をのんだり、食事をとったりするが、甚之介は「いや、結構です」と、盤面をにらみつけたままなのだ。
しかし、終わったのち、おはるが豆腐や野菜の煮染などを出そうものなら、大鉢のそれをぺろりと平らげた上、飯も六、七杯は食べ、「ああ……よい気持ちです」子供に返ったような無邪気さで、細い眼をさらに細め、腹をたたきながら帰っていくのである。
【豆腐と野菜の煮染】
料理:田村隆
材料:二人分
厚揚げ(1枚)蒟蒻(半分)人参(100g)牛蒡(50g)里芋(200g)生椎茸(4枚)(10枚)出汁(400㏄)醤油(大匙2)砂糖(大匙1,5)油(大匙1)
さやえんどうは沸騰した湯に塩を入れて茹でて置く。
牛蒡、里芋、人参は乱切りにし、椎茸には表面に切り目を入れる。
厚揚げは型崩れしないよう大き目に八等分に切り、蒟蒻は味が染み込みやすくするためコップでちぎる、大きさは揃えつつ形は不揃いで。
鍋に油を引き切った材料を全て入れ、炒める。
痛めた具材に出汁を入れ、醤油は半分、砂糖も入れる。
強火で落し蓋をして5分煮、火を止め、落し蓋を外して冷ます。
何回か煮詰めては冷ますを繰り返す。
仕上げに醤油を加え汁気が無くなるまで煮詰める。
煮染は大鉢に盛り、切ったさやえんどうをのせ、小皿に取り分けて頂く。
4:34 2014/02/24