剣客商売十一 勝負【小判二十両】
秋山小兵衛は、浅草船場にある船宿〔鯉屋〕の隠し部屋から、ある密談を覗いていた。
小兵衛がみたのは二十数年ぶりに会った弟子の小野田万蔵。
相手の男は、小判二十両で、ある町人を襲って欲しいと依頼していた。
小兵衛は、万蔵が足を踏み外さぬよう探りを入れたが……。
寺嶋村の豆腐屋が毎朝の豆腐を届けに来た。
夏になると、小兵衛は朝から豆腐を食べるので、日に四丁の豆腐が要る。
江戸水でよくよく冷やした豆腐の上へ摩り生姜をのせ、これに、醤油と酒を合わせたものへ胡麻の油を二、三滴落としたものをかけまわして食べるのが、小兵衛の夏に好物であった。
その〔かけ汁〕の加減がむずかしくて、おはるは少女のこから小兵衛の許にいて、このかけ汁をこしらえてきたわけだが、このごろ、ようやく小兵衛の文句が出なくなった。
「剣術使いは飲み食いの加減がうるさいねえ、三冬さま。おたくの若先生もそうですかね?」などと、つい二、三日前に、隠宅にあらわれた三冬へ、おはるがいったものだ。
【冷奴】
料理:野崎洋光
材料:二人分
絹ごし豆腐(1丁)生姜(1片)醤油(大さじ2)酒(大さじ1)ごま油(小さじ1/2)わけぎ(1/2本)
豆腐は8当分に切り、皿に盛り付けるまで氷水で冷やす。
わけぎは青い部分だけ刻み、生姜は摩りおろす。
醤油と酒は火にかけて、じっくりと煮切り、ごま油を垂らす。
皿に豆腐を盛り付け、薬味を乗せ、かけ汁をかける。
※食べる途中で野崎洋光氏は手削りで本枯れ節を削って添えた。