» 2014 » 3月のブログ記事
剣客商売十五【二十番斬り】
小兵衛隠宅の物置を、二人の侍が蹴破ろうとしている。
中には、かつての門人、井関助太郎と四・五歳ばかりの男女。
二人をかくまう小兵衛に、次々と襲い掛かる刺客達。
さらに、田沼意次の息子で三冬の兄、意知の暗殺。
秋山親子を助けてきた者達が一致団結し、江戸の町を駆け巡る。
そして小兵衛は、二十人もの強者が待ち受けるあの場所へ……。
おはるが小兵衛の身をあんじて作る嵐の前の静かな昼餉。
秋山大治郎は、日暮れに関谷村へ立ち寄るからと、小兵衛への伝言をおはるにたのみ、今日の早朝に、関谷村から田沼屋敷へ出むいて行ったそうな。
おはるは、山芋のとろろ汁をつくって出した。
炊きたての麦飯にとろろ汁をかけまわして食べるのは、若いころから小兵衛の大好物であった。
大治郎も今朝は、このとろろ飯を食べて神田橋御門の老中・田沼主殿頭意次・上屋敷へ出かけたという。
大治郎妻・三冬は、田沼老中の妾腹の子だけに、田沼老中は大治郎を実の子のようにおもい、一日置きに邸内の道場へ来て、田沼の家来たちに稽古をつける大治郎と、「今日は会えよう」おもってはいても、激務のために、なかなか会えぬとか……。
いま、世上における田沼の人気は悪くなる一方であった。
【炊きたての麦飯にとろろ汁をかけたもの】
料理:田村隆
材料:二人分
【麦飯】麦(0,6合)米(1,4合)水(300cc)【とろろ汁】自然薯(150g)水(500㏄)煮干し(25g)信州味醂(30g)粉青海苔(適量)
煮干しは一晩水に漬けて置く。
自然薯は摺った時に不純物が混ざらないように丁寧に皮をむく。
すり鉢で優しく丁寧に芋を摺りおろす。
麦は熱湯に30分浸け柔らかくしてから米と一緒に炊く。
煮干しの入った鍋を火にかけ沸いたら火を止め味噌を加える。
味噌が溶きあがったら汁を脱脂綿で濾す。
濾し汁は一旦冷し、とろろと同じくらいの温度にする。
摺りおろした自然薯に濾した汁を少しずつ加えのばしていく。
出汁が全量無く成るまで少しずつ加えてのばす。
炊き上がった麦飯にとろろ汁をかけ、粉青海苔を散らす。
私感:と言いますが、麦飯などは刑務所の飯、今では刑務所でも出さないかも知れない。
十数年前に京都の麦とろ飯屋へメーリングリストのOFF会で行きました。
麦とろ飯は食う物の無い時代の食べ物だなぁ、と思ったのが私の感想でした。
にっぽん怪盗伝【ねずみの糞】
昔、掏摸を働いていた小間物屋の又吉は腕っ節の強い女房のおまゆに咎められ、堅気に成って早六年。
だが遊女のようなことをするおふくに入れ込んでしまった。
しかも、おまゆとおふくはかつて同じ道場で学んだ友だった。
おふくが、劍の道に進んだ理由と、その道を外れた理由が語られる……。
おでん燗酒の屋台主は凍てつく暮れの夜の悦楽。
又吉が、嶋屋を出たのは五ッ前であったろう。
大伝馬町から人形町通りをまっすぐに南へ行き、酒井志摩守屋敷にそって、ぐるりとまわると、永久橋がある。
これを渡って北新堀町を突っきれば、その対岸が又吉の住む深川である。
「うう、ばかに寒いな」永久橋のたもとまで来て、又吉は身ぶるいをした。
嶋屋で馳走になった酒の酔いも、すっかりさめてしまい、凍りつくような夜であった。
橋のたもとに[おでん・かん酒]の屋台店が出ていた。
「熱いの一本、つけて下さい」又吉は中へとびこんで、いった。
このころのおでんは、現代のわれわれが食べているような煮こみのものではない。
石をならべて熱した上へ、こんにゃくと豆腐をのせて水分を去り、十分に熱したところへ味噌をつけて出したものである。
熱い酒で、又吉は豆腐を一つ食べた。
「もう一本もらいましょうか」又吉が、人のよさそうな屋台店の老爺に、こういったときである。
ぬっと、のれんをわけて入って来た男が、「おい。おやじ」と、濁声でよんだ。
がっしりと、見上げるような男で、茶の垢じみた着物に太刀一本を落しざしにした、見るからに荒さみきった五十がらみの浪人者で、したたかに酔っていた。
【おでん】
料理:田村隆
材料:二人分
黒こんにゃく(1枚)焼き豆腐(一丁)信州味噌(200g)卵(1個)砂糖(40g)酒(20㏄)味醂(20㏄)
焼き豆腐は1,5㎝幅に切り、下茹でしたこんにゃくは1㎝幅に切る。
焼き豆腐とこんにゃくは田楽串に刺す。
味噌の中へ砂糖、味醂、酒、卵を入れ練りこむ。
よく練りこんだら火にかけてさらに練りこむ。
石を網に乗せ火にかけて熱する、石が熱くなったら串に刺したこんにゃくと焼き豆腐をのせて熱する。
熱くなった焼き豆腐とこんにゃくに味噌をのせて頂く。
5:32 2014/03/09
剣客商売二「悪い虫」
うなぎ屋の又六が、大治郎に剣術指南を願い出た。
悪い奴に馬鹿にされたくないから、十日で強くして欲しいと言う。
悪い奴とは、深川で手あたり次第悪事を働く又六腹違いの兄。
無茶な願いに困った大治郎は、父・小兵衛に打ち明けた。
こうして始まった、秋山親子の猛特訓。
十三日目。
又六の元へあの「悪い虫」が現れた……。
「三十年も剣術をやると、今度は、おのれがいかに弱いかということがわかる」「そ、それじゃあ、何にもなんねい」「四十年やると、もう何がなんだか、わけがわからなくなる」「だって、お前さん……いえ、先生は、まだ、おれと同じ年ごろだのに……」大治郎は苦笑した。
今いったことは、父・秋山小兵衛のことばの受け売りだったからである。
蕪の味噌汁に里芋の煮物。
それに大根の漬物の朝飯を、又六は緊張のあまり、ほとんど喉へ通さなかった。
【蕪の味噌汁】
料理:田村隆
材料:二人分
蕪(中2個)出汁(400㏄)味噌(30g)
【大根の漬物】
大根(100g)濃口醤油(大匙1)味醂(大匙1)酢(大匙1,5)赤唐辛子(1本)
蕪は身から5㎝程茎を残し皮を剥き、四等分に切り水に晒す。
出汁に蕪を入れ火を通す。
火が通ったら、味噌を溶き入れる。
大根は短冊に切り、赤唐辛子は刻む。
大根に濃口醤油・味醂・酢・赤唐辛子を入れ軽く揉む、ポリ袋へ入れ密封。
一時間程で出来上がり。