鬼平犯科帳8「あきれた奴」

 同心、小柳安五郎は、川に身投げをする妻子を助けた。
 それは小柳が十日前に捕えた鹿留の又八の女房子供だった。
 仲間と寺に忍び僧侶を殺し金を盗んだ又八、仲間は金を持って消え又八だけがお縄となった。
 それを知った小柳は平蔵に内緒で、又八を牢から出し女房子供に合わせることにしたのであった。

 その意図とは…?(この物語に描かれる食の場面)

 小柳が又八の女房子供を助けた夜の事である。
 
 役宅の前は、江戸城の濠に面した広い道で、役宅・正門の正面に[清水御門]が見える。
 江戸城・三十六門のうちの一つで、昔徳川家康が江戸に入った折、このあたりにこんこんと清水が湧き出ていたため、この名が門につけられたとか……。
 門外の東の濠端に、夜に入ると[茶飯売り]が荷を下ろす。
 ひどい雨ででもないかぎり、かならずあらわれる。
 このあたりは幕府の御用屋敷が多く、夜ふけてからそれぞれの小者や、夜勤の者たちが腹をみたしに出てくるので、なかなか繁昌をしているし、お上のゆるしも得ていた。
 あるじは五十五、六のでっぷりと肥った老爺で、無口だがおだやかな人柄だし、それに茶飯がうまい。
 そのほかに餡かけ豆腐も売るし、燗酒も出す。
 寒い夜などに気が向くと熱い[けんちん汁]の用意をしていることもあって、このあたりでは大評判になり、長谷川平蔵も時折、食いしん坊の木村忠吾が夜勤のときなどよびつけて「おい、うさぎ濠端へ行け。ただし女房どのに気取られるなよ」などと、銭をわたして茶飯と餡かけ豆腐を買いにやることもあった。
 今夜も茶飯売りはでていた。

餡かけ豆腐
料理:田村隆
材料:絹ごし豆腐(1丁)昆布(15g)出汁(300㏄)醤油(大匙2)みりん(大匙2)片栗粉(大匙2)水(水溶き片栗粉用)生姜(適量)

昆布を鍋に入れ二つに切った豆腐を入れ沸騰させないようにじっくりと味を染み込ませる。
餡は出汁、醤油、みりんを入れひと煮立ちさせる。
ひと煮立ちしたら火を止め水溶き片栗粉を入れとろみをつける。
餡はダマにならないようもう一度火にかける。

椀に昆布の味が染み込んだ豆腐を入れ熱々の餡をかけおろし生姜を添える。
5:30 2014/02/03


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