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 殺しの掟【梅雨の湯豆腐】(講談社文庫)

 彦次郎は盗賊、御座松の孫八の元で盗賊をしていたが、孫八を殺して逃げ、仕掛人となった。
 そんな彦次郎の元へ二つの仕事が舞い込んだ。
 仕掛ける相手は、大工の万吉と辻屋半右衛門の女房お照。
 どちらも引き受け、探りを入れた、すると万吉は殺した孫八の甥でかつての盗人仲間。
 さらにお照は孫八の一人娘だった。
 なにやら裏がありそうだ?。
 
 小料理屋で口の固い二人の男が闇の談合。
 それは勿論…。

 ここは、浅草今戸橋に近い三好屋という小体な料理屋で、蜆汁が売り物である。
 近くに玉屋といって、これも蜆汁を名物にしている大きな料亭があるけれども、市兵衛に言わせると、「三好屋のほうが、ずっとうまい」のだそうな。
 遠い赤坂から、こんなところまで、蜆汁が好きな市兵衛はよく足をはこんで来るらしい。
 もう八ツ(午後二時)をすぎていたが、「いっしょに蜆飯を食おうよ」という市兵衛のさそいに、彦次郎はうすく笑ってかぶりをふり、「それじゃあ、これで」と腰をうかせた。
 「そうかい。むりに引きとめはしねえよ。それで、いつごろまでにやっておくんなさるね?」「急ぐなら、おことわり申してえので……」「いやなに、いいとも。まかせるよ、まかせるよ」この仕事がすんだなら、残りの三十両が手に入るので、彦次郎は合わせて六十両で引きうけたことになる。
 しかし、赤大黒の市兵衛は、略同額の金を依頼主からとり、自分のふところへ入れてしまったにちがいあるまい。
 市兵衛がたのみ、彦次郎が引きうけた仕事というのは、〔殺し〕であった。
 江戸へ住みついて十年になる彦次郎だが、この間、市兵衛からたのまれて殺しをしたのは五件ほどだったろうか…。
 

【蜆飯】と【蜆汁】
料理:田村隆
材料:二人分
蜆(1K)水(1L)塩水(水1L+塩10g)昆布(5g)

蜆は一時間ほど塩水に浸け砂抜きをする。
昆布を入れた水に洗った蜆を入れ火にかける。
蜆は開きだしたら火を止め蓋をする。
(余熱で蜆を開かせる)
煮汁を布巾で濾す。

【蜆飯】
米(1カップ)煮汁(200㏄)薄口醤油(小さじ1)蜆のむき身(60g)浅葱(10g)

煮汁、薄口醤油を入れ米を炊く。
ご飯が炊けたら蜆のむき身を入れ蓋をする。
茶碗に盛りつけた蜆ご飯に刻んだ浅葱を添える。

【蜆汁】
煮汁(400㏄)信州味噌(35g)蜆(250g)

煮汁に蜆を戻し、味噌を溶く。
沸騰したら火を止め椀に盛る。

4:58 2014/05/03


 鬼平犯科帳19【逃げた妻】(文春文庫)

 木村忠吾の飲み仲間、浪人藤田彦七へ二年前に逃げた妻おりつから、助けを求める手紙が届いた。
 藤田はすでに後添いをもらい、おりつの娘と三人で暮らしていた。
 おりつを助けたい、でも今の生活を捨てる訳には……。
 事を聞いた平蔵は、不穏な気配を感じ取った。
 そこで、おりつが藤田と落ち合う前日、周辺を歩いてみると、昔、取り逃がした盗賊が……。

 平蔵は茶店に入り辺りの事を覗う事に…。

 木村忠吾が藤田彦七と会った翌日の昼下がりに……。
 盗賊改方長官長谷川平蔵が大塚中町の通りを北へ歩む姿を見出すことができる。
 今日の平蔵は、細川同心を従えてはいず、例によって着ながしの浪人姿で塗笠をかぶり、ゆっくりした足取りで、波切不動堂の前まで来た。
 今日は風も絶え、雲一つなく晴れわたり、気温も上がったようだ。
 波切不動堂の別当は、日蓮宗の通玄院だが、境内は、まことに狭い。
 通りに面した空地の正面に茅ぶき屋根の茶店が一つあり、その左手に鳥居が見える。
 藤田彦七の逃げた妻が、鳥居前の茶店、と書いてよこしたのは、この茶店であろう。
 鳥居を潜って石段をあがると、黒塀の小さな門。
 その門の向こうに本堂がある。
 「ゆるせ」平蔵は茶店へ入り、あたりを見まわした。
 変哲もない茶店である。
 荷馬を外に繋いだ中年の馬方が一人、土間の腰掛で酒をのんでいた。
 平蔵は茶店の老婆に酒をたのみ、塗笠をぬぎ、馬方から少しはなれた腰掛にかけた。
 老婆が、ぶつ切りにした蒟蒻の煮たのを小鉢に入れ、酒と共に運んできた。
 唐辛子を振りかけた、この蒟蒻がなかなかの味で、「うまい」おもわず平蔵が口に出し、竈の傍らにいる老婆へうなずいて見せると、老婆は、さもうれしげに笑った。
 皺は深いが、いかにも人の善さそうな老婆だ。

【蒟蒻の煮しめ】
料理:田村隆
材料:二人分
蒟蒻(1枚)濃口醤油(大さじ半分+半分)砂糖(大さじ半分)出汁(200㏄)油(大さじ半分)赤唐辛子(半分)七味唐辛子(適量)

さっと湯通しした蒟蒻は両面を、すりこ木で軽く叩く。
両面を斜めから細かい包丁目を入れる。
コップを使い不揃いに切る。
フライパンに油を入れ炒める。
炒めて水分を飛ばす。
赤唐辛子を入れさらに炒める。
蒟蒻に水分が飛んだら、出汁、砂糖、濃口醤油を加え一煮立。
煮立ったら落し蓋をして中火でじっくり煮つめる、5分ほどしたら火を止め冷ます。
そして又火にかけ冷ます、この動作を3回繰り返す。
最後に醤油を加え、味を調える。

小鉢に盛り付け七味をのせる。


 鬼平犯科帳9【白い粉】(文春文庫)

 長谷川平蔵の家で料理番をしている勘助。
 ここ数日味付けが妙である。
 実は勘助博打で借金を造り、女房を連れ去られていた。
 そして付きまとう男達から、金を返せぬのならと差し出された、白い粉。
 つまり、平蔵の料理に毒を盛れと……。

 勘助は悩みつつも夕餉の膳の吸い物へ白い粉を落とし込む。
 腕ある男の得意料理、だがこの日の味はちっと違う。

 上方でいう〔あぶらめ〕という魚。
 関東では鮎並と言うし、江戸へ入る小さなのを〔クジメ〕ともよぶ。
 長谷川平蔵は若いころから、この鮎並が大好物であった。
 鮎並は細長い姿をしてい、緑褐色の肌に斑文が浮いているし、鮎のような姿ながら、あまり美しいとはいえぬ。
 平蔵はこれを辛目に煮つけたものが、好きであった。
 その日鮎並の煮つけが、夕餉の膳にのぼった。
 「や、これは……」たのしげに箸を取って一口。
 傍らにいた妻女の久栄は、さだめし、夫・平蔵の口から、「うまい!!」の一言が洩れるとおもっていたのだが、平蔵は小首をかしげ、もう一口。
 「いかがなされました?」久栄の問いにはこたえず、平蔵は鯨骨の吸い物に口をつけて、「妙な……」と、つぶやいたものである。
 「妙な?」「勘助のことよ」「勘助が、どうぞいたしましたか?」勘助は半年前から、長谷川家ではたらいている料理人なのである。

 〔中略〕
 「このごろ、勘助はどうかしている。ところに何ぞ、屈託があると見える」

【鮎並の煮つけ】
料理:田村隆
材料:二人分
鮎並(70g×2切れ)濃口醤油(50㏄)酒(50㏄)みりん(50㏄)砂糖(15g)鰹出汁(50㏄)くず粉(適量)木の芽(適量)

鮎並は三枚におろして、丁寧に骨抜きをする。
小骨が多いため骨切りをする。
骨切りをした中まで刷毛でくず粉を丁寧に付ける。
〔身の中に使った美味さを逃がさない一工夫〕
鍋に鰹出汁、酒、味醂、濃口醤油、砂糖を入れる。
一煮立ちしたら皮を下にして鮎並を入れる。
再び煮立ったら落し蓋をして3~4分煮る。
落し蓋をして3~4分煮たら一度火を止めて冷ます。
再び火を点け汁をかけながら味をしみこませる。
煮て冷ます、煮て冷ますの繰り返し。

鮎並の煮上がりは美味そうな黄金色に、小鉢に盛り木の芽を添える。

6:46 2014/04/18


 【真田太平記八】池波正太郎(新潮文庫)

 天正10年。
 武田勝頼、最後の砦[高遠城]。
 城を守る足軽向井佐平治は、お紅に出会った。
 お紅は、真田昌幸配下の忍び[草の者]。
 城を脱した佐平治は、お紅と信州真田へ向かい、別所温泉で昌幸の次男源次郎信繁[幸村]に出会った……。

 戦乱の山田舎、夕餉は忍びの者達にとって僅かな安らぎ。

 その日の夕暮れになり、下久我の忍び宿の屋根裏の部屋で眠っていたお紅から合図があったので、権左が隠し梯子を下ろした。
 すでに奥の部屋から奥村弥五平衛も起き出ている。
 階下へ降りて来たお紅は、弥五平衛と共に夕餉の膳についた。
 権左が支度した熱い粟飯である。
 この粟飯は、権左が得意とするもので、干し柿と干し大根が刻みこまれていた。
 「よう、眠れたか、弥五どの」「さて……」苦笑を浮かべた弥五平衛の瞼が、わずかに腫れている。
 お紅も同様であった。
 「やはりな……」「そちらも?」「うむ……」意味ありげな二人の遣り取りを権左が見つめている。
 今夜の忍び宿には、三人きりであった。

【干し柿と干し大根を刻み込んだ熱い粟飯】
料理:田村隆
材料:二人分
もち粟(70g)玄米(2合)水(520㏄)切干大根(乾燥20g)干し柿(35g)酒(200㏄)味醂(40㏄)濃口醤油(40㏄)砂糖(10g)赤唐辛子(1本)昆布(15g)

先ずは玄米を洗う、研ぐと言うより優しく洗う。
洗った玄米は6時間以上水に浸ける。
もち粟は一晩水に浸ける。
玄米は浸けて置いた水事釜に入れ、もち粟は水切りしてから合わせ炊く。
切干大根は一晩水に浸け、戻して茹でておく。
切干大根に茹でた昆布を千切りにして入れる。
煮切った酒と味醂・砂糖・濃口醤油・赤唐辛子を入れ、一晩浸けこむ。
干し柿は種を除き1センチ角に切る。
浸けこんだ切干大根と昆布は水を切り細かく刻む。
炊けたもち粟に入った玄米に入れよく混ぜる。
茶碗に盛ったら刻んだ干し柿をのせる。


 料理:坂西美津雄
 材料:4人前
 鰯(4匹)塩(適量)酢(適量)白味噌(100g)味醂(大匙3)砂糖(小匙1)酢(大匙3)練辛子(大匙1)

 鰯はこけらを取り頭を落とす、身は手開きで骨に沿っておろす。(鰯は手で開いた方が腹骨も綺麗に取れる)
 3枚におろした身に塩をたっぷり付けて20分置く。
 経過した鰯を酢で塩を洗い落とし、別の酢に10分ほど漬ける。
 出来上がった鰯は指で皮を剥ぎ、食べごろの大きさに切る。

 白味噌、味醂、砂糖、酢、練り辛子を混ぜて辛子酢味噌で頂く。
 


 剣客商売十五【二十番斬り】

 小兵衛隠宅の物置を、二人の侍が蹴破ろうとしている。
 中には、かつての門人、井関助太郎と四・五歳ばかりの男女。
 二人をかくまう小兵衛に、次々と襲い掛かる刺客達。
 さらに、田沼意次の息子で三冬の兄、意知の暗殺。
 秋山親子を助けてきた者達が一致団結し、江戸の町を駆け巡る。
 そして小兵衛は、二十人もの強者が待ち受けるあの場所へ……。

 おはるが小兵衛の身をあんじて作る嵐の前の静かな昼餉。

 秋山大治郎は、日暮れに関谷村へ立ち寄るからと、小兵衛への伝言をおはるにたのみ、今日の早朝に、関谷村から田沼屋敷へ出むいて行ったそうな。
 おはるは、山芋のとろろ汁をつくって出した。
 炊きたての麦飯にとろろ汁をかけまわして食べるのは、若いころから小兵衛の大好物であった。
 大治郎も今朝は、このとろろ飯を食べて神田橋御門の老中・田沼主殿頭意次・上屋敷へ出かけたという。
 大治郎妻・三冬は、田沼老中の妾腹の子だけに、田沼老中は大治郎を実の子のようにおもい、一日置きに邸内の道場へ来て、田沼の家来たちに稽古をつける大治郎と、「今日は会えよう」おもってはいても、激務のために、なかなか会えぬとか……。
 いま、世上における田沼の人気は悪くなる一方であった。

【炊きたての麦飯にとろろ汁をかけたもの】
料理:田村隆
材料:二人分
【麦飯】麦(0,6合)米(1,4合)水(300cc)【とろろ汁】自然薯(150g)水(500㏄)煮干し(25g)信州味醂(30g)粉青海苔(適量)

煮干しは一晩水に漬けて置く。

自然薯は摺った時に不純物が混ざらないように丁寧に皮をむく。
すり鉢で優しく丁寧に芋を摺りおろす。

麦は熱湯に30分浸け柔らかくしてから米と一緒に炊く。

煮干しの入った鍋を火にかけ沸いたら火を止め味噌を加える。
味噌が溶きあがったら汁を脱脂綿で濾す。
濾し汁は一旦冷し、とろろと同じくらいの温度にする。
摺りおろした自然薯に濾した汁を少しずつ加えのばしていく。
出汁が全量無く成るまで少しずつ加えてのばす。

炊き上がった麦飯にとろろ汁をかけ、粉青海苔を散らす。

私感:と言いますが、麦飯などは刑務所の飯、今では刑務所でも出さないかも知れない。
十数年前に京都の麦とろ飯屋へメーリングリストのOFF会で行きました。
麦とろ飯は食う物の無い時代の食べ物だなぁ、と思ったのが私の感想でした。


 にっぽん怪盗伝【ねずみの糞】

 昔、掏摸を働いていた小間物屋の又吉は腕っ節の強い女房のおまゆに咎められ、堅気に成って早六年。
 だが遊女のようなことをするおふくに入れ込んでしまった。
 しかも、おまゆとおふくはかつて同じ道場で学んだ友だった。
 おふくが、劍の道に進んだ理由と、その道を外れた理由が語られる……。

 おでん燗酒の屋台主は凍てつく暮れの夜の悦楽。

 又吉が、嶋屋を出たのは五ッ前であったろう。
 大伝馬町から人形町通りをまっすぐに南へ行き、酒井志摩守屋敷にそって、ぐるりとまわると、永久橋がある。
 これを渡って北新堀町を突っきれば、その対岸が又吉の住む深川である。
 「うう、ばかに寒いな」永久橋のたもとまで来て、又吉は身ぶるいをした。
 嶋屋で馳走になった酒の酔いも、すっかりさめてしまい、凍りつくような夜であった。
 橋のたもとに[おでん・かん酒]の屋台店が出ていた。
 「熱いの一本、つけて下さい」又吉は中へとびこんで、いった。
 
 このころのおでんは、現代のわれわれが食べているような煮こみのものではない。
 石をならべて熱した上へ、こんにゃくと豆腐をのせて水分を去り、十分に熱したところへ味噌をつけて出したものである。

 熱い酒で、又吉は豆腐を一つ食べた。
 「もう一本もらいましょうか」又吉が、人のよさそうな屋台店の老爺に、こういったときである。
 ぬっと、のれんをわけて入って来た男が、「おい。おやじ」と、濁声でよんだ。
 がっしりと、見上げるような男で、茶の垢じみた着物に太刀一本を落しざしにした、見るからに荒さみきった五十がらみの浪人者で、したたかに酔っていた。

【おでん】
料理:田村隆
材料:二人分
黒こんにゃく(1枚)焼き豆腐(一丁)信州味噌(200g)卵(1個)砂糖(40g)酒(20㏄)味醂(20㏄)

焼き豆腐は1,5㎝幅に切り、下茹でしたこんにゃくは1㎝幅に切る。
焼き豆腐とこんにゃくは田楽串に刺す。
味噌の中へ砂糖、味醂、酒、卵を入れ練りこむ。
よく練りこんだら火にかけてさらに練りこむ。

石を網に乗せ火にかけて熱する、石が熱くなったら串に刺したこんにゃくと焼き豆腐をのせて熱する。
熱くなった焼き豆腐とこんにゃくに味噌をのせて頂く。

5:32 2014/03/09


 剣客商売二「悪い虫」

 うなぎ屋の又六が、大治郎に剣術指南を願い出た。
 悪い奴に馬鹿にされたくないから、十日で強くして欲しいと言う。
 悪い奴とは、深川で手あたり次第悪事を働く又六腹違いの兄。
 無茶な願いに困った大治郎は、父・小兵衛に打ち明けた。
 こうして始まった、秋山親子の猛特訓。
 十三日目。
 又六の元へあの「悪い虫」が現れた……。

 「三十年も剣術をやると、今度は、おのれがいかに弱いかということがわかる」「そ、それじゃあ、何にもなんねい」「四十年やると、もう何がなんだか、わけがわからなくなる」「だって、お前さん……いえ、先生は、まだ、おれと同じ年ごろだのに……」大治郎は苦笑した。
 今いったことは、父・秋山小兵衛のことばの受け売りだったからである。
 蕪の味噌汁に里芋の煮物。
 それに大根の漬物の朝飯を、又六は緊張のあまり、ほとんど喉へ通さなかった。

【蕪の味噌汁】
料理:田村隆
材料:二人分
蕪(中2個)出汁(400㏄)味噌(30g)

【大根の漬物】
大根(100g)濃口醤油(大匙1)味醂(大匙1)酢(大匙1,5)赤唐辛子(1本)

蕪は身から5㎝程茎を残し皮を剥き、四等分に切り水に晒す。
出汁に蕪を入れ火を通す。
火が通ったら、味噌を溶き入れる。

大根は短冊に切り、赤唐辛子は刻む。
大根に濃口醤油・味醂・酢・赤唐辛子を入れ軽く揉む、ポリ袋へ入れ密封。
一時間程で出来上がり。


 剣客商売四 天魔「老僧狂乱」

 秋山大治郎は、昔世話になった僧侶が大川に身を投げる場に出くわし、助けた。
 金百両を盗み取られた故の身投げ。
 話を聞いた小兵衛は、金を工面し僧侶に渡した。
 しかし裏では、四谷の弥七が僧侶を見張った。
 案の定、僧侶は翌朝、姿をくらませた。

 そこへ、お春が酒の支度をしてあらわれた。
 鉄鍋で煎りつけた鴨の肉に、芹をあしらったものが運ばれた。
 「さ、熱いうちにやれ」「いただきます……」「あ、これは……」「どうじゃ、うまいだろう?」「はい」「あとで、お
はるが得意の鴨飯をつくるぞ」それに、熱湯へ潜らせた芹に淡塩をあてて、軽く圧した漬物も出た。
 「ようやくに、腹の虫が、おさまったわえ」

【鴨鍋】
料理:田村隆
材料:二人分
鴨肉(400g)芹(2束)醤油(大匙2,5)砂糖(大匙2)酒(大匙2)

芹は5㎝の長さに切り、根の部分は捨てずに水に浸しておく。
鴨肉は余分な脂身・皮・すじなどをとり除く。
皮に包丁目を入れ、目を横にして一口大に切り、油を引いた鉄鍋で炒り付ける。
芹は固い根の部分から鍋に入れ、砂糖と醤油で甘辛く味を付ける。
さらに酒を加え円やかに、煮上がったら芹を入れ、煮ながら頂く。

【鴨飯】
料理:田村隆
材料:二人分
取り除いた鴨、長ネギ1本、ご飯茶わん二杯

鴨は細かく切り、長ネギは縦に割り、1㎝に幅に切る。
食べ終わった鴨鍋の中に細かく切った鴨、葱、ご飯を入れ焼き飯の要領で炒める。

【芹の漬物】
料理:田村隆
材料:芹の葉の部分と塩

芹の葉の部分は塩を入れた湯にくぐらせ、塩で揉む。


 剣客商売六 新妻「鷲鼻の武士」

 若き剣客渡部甚之介は、黒田道場の代稽古をつとめていた。
 そこへ三人の侍がやって来て、立合いを申し出た。
 渡部は、浪人風の二人を打ち倒したが、鷲鼻の男だけは立合おうとせず去っていった。
 しかし翌朝、渡部の元へ、鷲鼻の男から果し状が届けられたのである。

 小兵衛と将棋を指す渡部だが、この日の様子をちと違う。

 「将棋はお好きか?」「はあ……」「では、ひとつ、相手をさせてもらいましょうかな」「願うてもないことです」というのが、はじまりで、以後は月に一度ほど、甚之介が隠宅へあらわれ、小兵衛と将棋を指し合うようになった。
 このほうの二人の力量は伯伸している。
 だから、双方がおもしろい。
 ことに甚之介は、いったん将棋に向かうと無我夢中となり、前日の午後から指しはじめ、翌朝におよぶこともめずらしくない。
 この間、小兵衛は酒をのんだり、食事をとったりするが、甚之介は「いや、結構です」と、盤面をにらみつけたままなのだ。
 しかし、終わったのち、おはるが豆腐や野菜の煮染などを出そうものなら、大鉢のそれをぺろりと平らげた上、飯も六、七杯は食べ、「ああ……よい気持ちです」子供に返ったような無邪気さで、細い眼をさらに細め、腹をたたきながら帰っていくのである。

【豆腐と野菜の煮染】
料理:田村隆
材料:二人分
厚揚げ(1枚)蒟蒻(半分)人参(100g)牛蒡(50g)里芋(200g)生椎茸(4枚)(10枚)出汁(400㏄)醤油(大匙2)砂糖(大匙1,5)油(大匙1)

 さやえんどうは沸騰した湯に塩を入れて茹でて置く。
 牛蒡、里芋、人参は乱切りにし、椎茸には表面に切り目を入れる。
 厚揚げは型崩れしないよう大き目に八等分に切り、蒟蒻は味が染み込みやすくするためコップでちぎる、大きさは揃えつつ形は不揃いで。
 鍋に油を引き切った材料を全て入れ、炒める。
 痛めた具材に出汁を入れ、醤油は半分、砂糖も入れる。
 強火で落し蓋をして5分煮、火を止め、落し蓋を外して冷ます。
 何回か煮詰めては冷ますを繰り返す。
 仕上げに醤油を加え汁気が無くなるまで煮詰める。

 煮染は大鉢に盛り、切ったさやえんどうをのせ、小皿に取り分けて頂く。

4:34 2014/02/24


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