鬼平犯科帳8 明神の次郎吉
他人のものを盗み取る稼業ゆえに、盗めをはなれているとき、他人へつくす新切には骨惜しみをしない。
差し引き勘定で、(このおれは、きっと、畳の上で死ぬるにちげえねえ。 いや、神さま仏さまが、それぐれえのことをして下さらあな)などと、おもっているのだ。
それにしても、今夜は特別に気もちがよかった。
なんといっても、浪人ながら大小の刀を腰に帯した左馬之助が、(取るに足らねえ、このおれを荷車に乗せ、梶棒を把っておくんなすったのだものな)なのである。
三次郎は、先ず、鯉の塩焼きを出した。
鯉の洗いとか味噌煮とかいうけれども、実は、塩焼きがいちばんうまい。
酒も、とっておきのを出してくれた。
「こりゃあ、どうも……ふむ、ふむ。こいつは、へえ、たまらなくうまい」
次郎吉は、舌つづみをうち、「あんまりのむと、こんなうまえものが腹へ入りません。ですからすこしずつ……」と、なめるように、ゆっくりと酒をのんだ。
つぎに、軍鶏の臓物の鍋が出た。
新鮮な臓物を、初夏のころから出まわる新牛蒡のササガキといっしょに出汁で煮ながら食べる。
熱いのを、ふうふういいながら汗をぬぐいぬぐい食べるのは、夏の快味であった。
「うう……こいつはどうも、たまらなく、もったいない」次郎吉、大よろこびであった。
鬼平犯科帳8 明神の次郎吉 【軍鶏の臓物鍋】
料理:野崎洋光
材料:二人分
軍鶏の鶏ガラ(1羽分)レバー(200g)砂肝(200g)
白滝(1玉)ねぎ(1本)ごぼう(1/2本)椎茸(2個)
芹(1束)醤油(200㏄)酒(200㏄)昆布(10㎝角1枚)
卵(2個)こしょう(適量)
軍鶏は福島県伊達郡川俣町のものを使うと野崎洋光は言う。
先ず、軍鶏のガラを下茹でする、茹でた鶏ガラの血合いや汚れをとる。
鶏ガラを昆布といっしょに煮込み、灰汁をとりながらじっくりと、めあすはおよそ30分。
つぎは臓物の仕込み、筋や血合いをとり除く、それをかるく湯通しする。
ごぼうはササガキにする、ねぎは斜め切りに気持ち大き目に、芹には4㎝の長さに切る、白滝は湯通しする。
軍鶏のスープに醤油、酒を加える、そこに湯通しした臓物加える。
椎茸、白滝は火をつける前にいれる。
煮立ってきたらごぼう、ねぎ、芹を入れる、香りが飛ぶので余り煮すぎてはいけない。
最初はお椀に卵をとき、すき焼き風にして食べてほしいと言う。
鍋にご飯を入れるので無く、ご飯に具を乗せこしょうをかけて頂く。
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