この日の島田九兵衛は、妙に寂しげであった。
そして、九兵衛にしてはめずらしく、夜に入っても帰ろうとはせず、二歳になった菊をあやしたり、雪丸と世間ばなしに興じたりした。
さとは、夕餉の仕度にかかった。
「なにもございませぬが、めしあがって下さいませ」さとがすすめると、九兵衛は大いによろこび、「ありがたく、馳走にあずかりましょう」と、こたえた。
これは、かつてなかったことだ。
さとは先ず、笊の上へ茹でた衣被を出した。
衣被で酒をのむうち、芋茎の汁が出た。
「うまい。これは、うまい」九兵衛は、舌つづみを打って、汁のおかわりをした。
そのうちに、月がのぼった。
【衣被】
料理:野崎洋光
材料:二人分
里芋 小(10個)胡麻塩(適量)昆布(15㎝角1枚)
里芋の根の部分を切落とす、皮の中央部分に切れ目を入れる。
水洗いして汚れを取り除く、水洗いした芋は根の切れ目の部分を下にして30分ほど昆布にのせる。
温まった蒸し器に入れて12程蒸かす、竹串を刺して刺されば蒸しあがり。
熱いうちに切れ目を入れた上の皮をむく、そのむいた処へ胡麻塩を付ける。
【芋茎汁】
料理:野崎洋光
材料:二人分
芋茎(2本)わけぎ(1本)薄口醤油(15㏄)酒(15㏄)
塩(2g)煮干し(5本)昆布(4㎝角1枚)水(400㏄)
芋茎を縦4等分横4㎝に切る。
1%の塩水(100㏄)に大根おろし(100㏄)を加える、それを網で漉す、その汁の方を使う。
その汁に芋茎を漬け1時間ほど灰汁を抜く。
灰汁を抜いた芋茎を笊に上げ水気を切、酢を入れたお湯で芋茎を下茹でする。
(酢を入れる事で色の変わりを防ぐ)
かるく茹でたら水に浸す、それを手で絞って酢の味を抜く。
頭、内臓を取り除いた煮干しと昆布を鍋に入れる(水400㏄)芋茎を入れて火にかける。
沸騰したら酒、薄口醤油で味を付、そこへわけぎを加え一煮立ちさせる。