夕飯どきの少し前の、空いている時間に二階にあがり、先ず帆立貝のコキールか何かで、日本酒をのんでいると、亡くなった先代が調理場からあらわれて、「や、いらっしゃい。後で薄いカツレツめしあがりますか?」と、声をかけてくるような気がする。
この店の洋食はワインなぞではなく、日本酒でやるのが、もっとも私には良い。
上等の豚ロースを薄めに切ってもらい、コンガリと揚がったカツレツの旨さ。
神経をつかって焼きあげたポークソテーの舌ざわり。
ベーコンの厚切りを乗せたビーフステーキも、日本酒と御飯に似合う。
階下の食堂は二階より安直に食べられるが、たとえば二階にあがっても、カレーライスをたのむとき、私は階下の安いほうにしてもらう。
そのほうが、なんだか、むかしの味がするからだ。
「たいめいけん」の洋食には、よき時代の東京の、ゆたかな生活が温存されている。
「むかしの味」池波正太郎(新潮文庫)
「たいめいけん」東京都中央区日本橋1-12-10
昭和6年(1931)創業
池波正太郎がよく訪れていた洋食屋「二階建」
料理:坂西美津雄
【芋茎の酢の物】
大き目の鍋に湯が沸騰したら一握りの塩を入れて芋茎をさっと茹でる。
茹であがった芋茎は冷水にさらし笊に上げる、芋茎は皮を剥いて好みの大きさに切る。
好みの味で甘酢を作り漬けこみ冷蔵庫で保存、翌日からお召し上がりいただけます。
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