剣客商売番外編「ないしょ ないしょ」
 秋山小兵衛を見るのは、お福にとってはじめてのことであるが、三浦平四郎と小兵衛とは、時折、外で会っているらしかった。
 三浦老人が、自分が奉公に来たことをよろこんでいると聞いて、お福はうれしかった。
 通路から前庭へ出て行った小兵衛を見るや、「おお、秋山先生…」三浦老人は、親しげに声をかけた。
 「三浦先生。お稽古中でしたか?」「いや何。さ、どうぞ、こちらへ」「このように、早い時刻に参上して、申しわけもありませぬ」「なんの…」と、二人の老人は礼儀正しい挨拶をかわし合った。
 「お福。朝の膳を、秋山先生にもさしあげてくれ」「はい」「いや、おかまいなく」「なんの、この娘がこしらえるものは、なかなかに旨い」「ほう。それは先生、何よりの仕合せというものですな」語りはじめた二人を後にして、お福は台所へ戻った。
 味噌汁には、茄子を、ちょっと網で焼いて入れることにした。
 あとは瓜揉みに鯵の干物。
 この鯵は、三浦老人みずから手にかけて軽く日に干したもので、なかなか旨いのだ。
 お福が膳を運んで行くと、秋山小兵衛は客間へあがっていて、膳ごしらえを見るや、「ふうむ。なるほど、よく出来ている」と、つぶやいたのである。

【鯵の干物】
料理:野崎洋光
材料:二人分
鯵(2匹)塩(6g)水(400㏄)昆布(5㎝角1枚)
他に洗い用の塩水(海水程度)

鯵をひらく、塩水に鯵を入れ鯵に血合いを取る。
水200㏄に塩6gと昆布を入れる、そこに開いた鯵を漬けこむ、目あすは二時間。
水からあげた鯵を布巾で水気を拭き取り、笊に上げ風通しの良いところで一晩干す。
炭火をおこし、干した鯵を皮側から焼く、身が白くなってきたら返して焼く。
そしてもう一度皮めを焼く、焼すぎには充分注意をしよう。
焼き加減の目あすは皮めが7、身の方が3、これが野崎の拘りである。


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